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■シリーズ <ヴォー・ル・ヴィコント>(7) 傑作<眠り>



  <賭け事の間>の天井を飾る絵画<眠り>Le Sommeil は画家ル・ブランLe Brunの作品です。ル・ブラン(1619−1690)という画家は日本人には殆んど知られていないかと思いますが、ヴェルサイユの鏡の間73mの天井画を描いた17世紀最高権威の画家です。ヴェルサイユ王が最も力を入れた<鏡の間>の絵画を担当したル・ブランは、王が創設した芸術アカデミーの監督官また王の主席画家として芸術界に君臨し宮殿の装飾全般を監督しました。
  しかしヴェルサイユのどの絵を鑑賞してもこの<眠り>に及ぶものは無いように思います。王の命を受けて描いた絵と自らの自由な発想で描いた絵の違いは明らかです。政治的な絵に対する非政治的な絵の違いと言ってもいいかもしれません。
  ヴォー・ル・ヴィコントに招待された王は水平に広がる庭園に眼を見張り、見上げると天井に描かれた絵、特に<眠り>の素晴らしさに眼の覚める思いを持ち、嫉妬はますます募って行ったに違いありません。
  かくしてヴェルサイユに招聘された画家ル・ブランは社会的地位と名誉を得ましたが、その瞬間に、芸術家にとって一番大事な自由性を失ったのです。
  ル・ブランの才能ははちきれそうな若い女体をまぶしいくらいの肌つやで描いたところにあり、また若い体が求めても足りないほどの<眠り>を眠りのシンボル・ケシの花を手にうだるく持たせることによって傑作の域で表現できているところにあるでしょう。





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