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■フランス中世の贈り物、黒いマリアの宿る神秘の宗教都市、ロカマドウール

  アルズー峡谷に切り立つ石灰岩質のグラマ台地、目も眩む150メートルの高さ、そのほぼ垂直な岩肌に食い込むように築かれた街、ロカマドウールはその不思議な景観で人を引き付ける。中世の人は自然のもたらした驚異の美しさを見逃すことはなかった。まさしくここは天と地をつなぐ聖所にふさわしい地形であった。 キリスト教初期の時代に、この岩場を隠遁の地として選んだ聖人がいた。その名をアマドウールと言う。彼の亡骸が12世紀に無傷で腐りもせず発見され、ROC=岩、AMADOURの地名の由来となる。岩をくりぬいた洞窟の中にアマドウール聖人が祈りの場とした祭壇があった。その祭壇に置かれていた聖母子像が、奇跡で人を救うと言う言い伝えと共に、聖地として巡礼者を迎える場となっていった。
  岩に添って登る200余りもある大階段を巡礼者たちは、祈りを捧げながら跪いて登ったのだ。巡礼者としてこの階段を登り、聖母マリアに祈りを捧げに来た君主には、イギリス王プランタジュネット家のヘンリー2世とその妃アリエノール・ド・アキテーヌ、フランス国王は聖ルイ王とその母ブランシュ・ド・カスチーユ、フィリップ4世美貌王、そしてルイ11世等がいた。聖母マリアの礼拝堂入り口の脇を見上げると、岩に剣が刺さっている。荒唐無稽な話ではあるが、中世吟遊詩「ローランの歌」で有名なローランの剣デユランダルと言われ、ローランがピレネーの山中で息絶えるとき、“マリアに捧げる”と空高く投げたものであると言う。
  マリア像は身丈70センチ足らずの木製で、昔は銀箔で覆われていた。ジャコメテイの彫刻のように細い細い体なのに何故かぬくもりを感じさせ、なんと厳かな気品をたたえたマリア像であろう。どんなにか沢山の人々の嘆きを、そして救いを求める声を聴き、彼等の支えとなったことだろう。12世紀のものと推定されるこの黒いマリア像は、数々の動乱をくぐり抜け破壊を免れた、フランスの中でも最も古いものの一つである。もう船乗りを救った鐘(カリヨン)は鳴らないけれど、時を超え、世俗を離れ、今も哀れもを持って私たちを見守ってくれているような気がする。20世紀、このマリア像から啓示を受け一層の信仰心を深めた音楽家フランシス・プーランクはこのマリアの為に「黒いマリアの連祷」を作曲している。中世の不思議な神秘の世界は、これからも私たちに多くの示唆とインスピレーションを与えてくれることだろう。


ロカマドールの駅


ロカマドールの坂道

  旅のアドヴァイス:ロカマドウールの産物は山羊のチーズ、又、ここロット県はフランス一番のトリュッフの産地である。近くの訪れてみたいところー先史時代の壁画(レプリカではあるが素晴らしい)ラスコーの洞窟、中世の封じ込められた街サルラ、フランスで最も美しい村に指定されているコローニュ・ラルージュ、カレナック、サン・シルク・ラポピー等。


森 峰子
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ロカマドール・アズール渓谷


黒いマリア




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