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■ルーアンに新ジャンヌ・ダルク歴史館!

 ジャンヌ・ダルク、この歴史的人物を知らない人はいません。百年戦争(1337−1453)で追い詰められたフランス王国をオルレアンの戦いで救った17歳の少女(自らPucelle・生娘と名のる)は1年後に逮捕され、英王国へ売られ、英王の拠点であったルーアンで2年後には卑劣な宗教裁判を受け、火あぶりの刑により衝撃的な死を遂げたが故に時空を超えて共感を呼ぶからでしょう。
 そのルーアンに2015年3月21日、ジャンヌ・ダルクに関しては初めての本格的なとも言える歴史館・HISTORIAL JEANNE d’ARCが開館しました。印象派の巨匠・モネの絵画シリーズで知られる<ルーアン大聖堂>(写真1)の正面左側の鐘楼はSaint Romainの塔と呼ばれていますがこの鐘楼側のSaint Romain通りにHISTORIALはあります。通りには大司教の館が残っており、その入り口の左右に1431年の宗教裁判と1456年の名誉回復裁判が行われた記念の碑があります。
 したがって、HISTORIALの内容はこの2つの裁判、特に名誉回復裁判を軸にしてジャンヌの生涯と戦いの軌跡を絡めていくという高度なものになっています。法律用語と宗教語が出てくるのも一因します。それでいて、最新の映像テクニック、プロジェクション・マッピングを使用していますので小中高生を退屈させないはずです。それぞれの部屋そのものが大司教の館であったために歴史的ですがHISTORIALには歴史的オブジェは殆ど展示されていません。HISTORIALは全く新しいタイプの歴史の館なのです。
 

写真1
 
 15分置きにスタートするプロジェクション・マッピング歴史館は先ず地下の礼拝堂に入ります。最初はロマネスク様式の地下礼拝堂(12世紀)@、その奥はゴシック様式の礼拝堂(13世紀)A、次に地階に出て15世紀のキッチンB、となりのパントリーC、そのあと一気に80段のらせん階段を登って屋根裏の大部屋Dに移動、最後に見張りの塔Eという順路です。訪問の最後はルーアンの景色を自由に楽しんでくださいという趣向になっています。
 最初から係りの人が付いておりマッピング映写が終了すると次の部屋に案内するシステムですので迷うことはありません。わずかに6か所の訪問ですが1時間15分を要し、見張りの塔で自由に眺めを楽しんだ後は思い思いに下の階へと下りて行きます。公式の訪問はこれで終わりますが、下りる途中、訪問者を引き付ける部屋がありますので人によっては2時間から3時間かかるでしょう。例えばジャンヌ・ダルクを後世の歴史や現代の人たちはどのように評価してきたのか、あるいは現在どのような研究がなされているのかを紹介する部屋があります。しかも映像を駆使した紹介ですので訪問者の足を止めるようです。特に4人の大学教授が訪問客の質問に答える部屋はHISTORIALのレヴェルを高尚にしています。質問はあらかじめそれぞれの教授に4問用意されておりボタンを押すと教授が3D映像の中で動き出し話し始める仕組みです(写真2)。また、地階の部屋には日本で上演された演劇とコンサートのポスターも展示されています(写真3)。
 

写真2


写真3
 
マッピング映写する部屋は@処刑場での判決文朗読と再審;母の裁判やり直し嘆願とジャンヌ登場以前のフランス王国、A名誉回復裁判での証人たちによるジャンヌ・ダルクの生い立ち;ドムレミー村から王の拠点シノンへ、Bフランス王の拠点シノンでのこと;証人たちによるシャルル7世とジャンヌの会見のこと、Cジャンヌ・ダルクの戦い;証人たちによるオルレアンの勝利からランス、パリ、コンピエーニュ、ルーアンまでの証言、D名誉回復裁判によるジャンヌ・ダルクの復権;火刑に至らしめた1431年裁判(男装、戻り異端、魔女)の否定、と続きます。名誉回復裁判の首席裁判官が最初から最後まで裁判を通してジャンヌ・ダルクを語り、語らせ名誉回復に導いていくという流れです。25年の間隔で行われた2度の裁判の記録を元にして裁判官、証人(神学者、聖職者、宮廷人、軍人や村人)たちを登場させジャンヌ・ダルクの生涯と戦いの軌跡を振り返り、しかも時代を交錯させてメリハリを付けていますので見学者たちを退屈させません。
 特に、ゴシックの部屋Aでは映像が変幻しマジックの世界です(写真4)。キッチンの部屋Bには3つもかまどがありその並んでいるかまどを利用して映写しています。Cパントリー(キッチンとダイニングの間にある部屋)の入口にパリ・ピラミッド広場にある騎馬像の小像が置かれているのは次がいよいよジャンヌ・ダルクの戦いの場面であることを告げています。オルレアンの戦いなどは地図使って巧みに紹介していますので見る人は戦いの中に誘い込まれていくような印象を持つでしょう。そしてクライマックスはらせん階段を登り切ったあとのDの部屋です。ここでは宗教裁判と復権裁判を絡ませながらの激しい議論やかつて映画でジャンヌ役を務めた女優たちの映像が出て来ます。映像パネルが訪問者を取り囲むように置かれていますのでまるで裁判に参加しているような錯覚を与えます。
 

写真4
 
 新タイプの歴史の館・HISTORIALは早くもルーアンの人たちの誇りになっており今まで人影が少なかったSaint-Romain通りは急に賑やかになって来ました。このHISTORIALを通して<ジャンヌ・ダルク、火あぶりの刑>の都市ルーアンは<ジャンヌ・ダルクを名誉回復したルーアン>としてそのイメージを新しくする可能性が出て来ています。


(追記)

開館時間(月休);9:45−18:00(最終入館)
開館時間(月休);6月1日から9月30日までは9:45−18:00、金・土 19:00(最終入館)
tel ; 02 35 52 48 00   www.historial-jeannedarc.fr

チケット;9:50ユーロ(ファミリー料金26ユーロ;18歳未満2人と大人2人)
日本語の案内翻訳イヤフォンが間もなく出来るようです。 

パリからルーアンまでは130km;車・高速A13にて1時間半、鉄道・サン・ラザール駅から1時間10分
食事;今でも市場があるVieux-marche(ジャンヌ火刑場)のジャンヌ・ダルク教会入口から見えるフランス最古の宿(1345年)・レストランでルーアン名物・カモ料理がお勧め。    
 
パリ・ガイド通訳協会HP文化部
 



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